活動レポート

Nee Thongちゃんのストーリー2021.07.20

ラオス

NHK WORLD-JAPAN 『Side by Side』で放送された映像の中で、骨肉腫を患い、緩和ケアを受けているNee Thongちゃん(Neeちゃん)という女の子が紹介されました。覚えていますか?アウトリーチチームがフォローアップを行っていた患者さんです。

 

▼NHK WORLD-JAPAN 『Side by Side』▼

こちらからご覧いただけます。

https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/tv/sidebyside/20210303/2037074/

 

アウトリーチの訪問目的は様々で、その中の一つが緩和ケアを自宅で行うケースです。悪性の疾患や進行性の難病のために治療方法がない、または経済的理由により治療を受けることができず自宅で終末期を迎える患者さんに対して、痛みをはじめとする様々な苦痛の緩和のためにご家族と一緒に取り組みます。こうした緩和ケアへの対応は、昨年あたりから特に意識的にラオス人スタッフへも問題提起をし始めました。

Neeちゃんの病状は想像以上に進行が早く、転移と思われる症状も出現し始め、緩和ケアを自宅で行っている状況でした。

 

左の膝に痛みを感じるようになり、良くならないことでラオ・フレンズ小児病院(LFHC)を来院したNeeちゃん。様々な検査の結果、進行した骨肉腫であると診断が出され、既に手術で取れる状況ではないと予測されました。しかし、首都ビエンチャンの専門医へ行って確かめることも可能であると、ご家族に告げられていました。

 

専門性の高い疾患に関しては首都ビエンチャンの病院へ転送するのですが、転送後はその多くが自費での診療・治療となるため、その金額によっては家族が支払い可能な限度を超えていることがあります。Neeちゃんのご家族も悩んでいました。行くための資金をすぐに調達することができなかったので、退院し、資金調達を試みるということで自宅へ帰っていきました。

 

退院後、家族とはこまめに連絡を取り合いながらNeeちゃんの状況を把握し、ご家族がビエンチャンへ行きたいと決断した場合にはすぐに対応できるように準備を進めていました。しかし、Neeちゃんの病状の進行は予想以上に早く、左の足は腫れ、痛みは増強し、転移と思われる症状も出現しはじめ、誰が見ても終末期を迎えていることが分かる状況において家庭での緩和ケアを提供することになりました。

 

「痛みはどうだろう?」「足の腫れはどうなっているかな?」「家族は不安がないかな?」と、とても気にかかっていたので、1泊2日での訪問看護を予定しました。Neeちゃんの住む村までは、ルアンパバーンから車で半日ほどかかります。鎮痛剤やガーゼ、包帯などをたくさん準備して向かいました。

 

Neeちゃんの村に着いたのは、もう夕暮れになっていました。彼女の自宅には伝統医療の儀式を行った後の村人が、たくさん残っていました。Neeちゃんの病状はかなり進行していることが一目で分かる状態でした。ゆっくりと時間をかけてNeeちゃんや家族とお話しをしました。

 

Neeちゃんは、全身の痛みが一番つらいこと、足に当てているガーゼがすぐに汚れてしまうことがとても嫌なこと、早くお友達と一緒にまた学校へ行きたいこと、食べたいものはリンゴにオレンジに豆乳、そして、細身で裾が広がったジーパンをはきたいと思っていること。苦しい呼吸をしながらもお茶目な表情で話してくれました。

 

そばにはお父さんがいて、濡らしたタオルで発熱のある身体を拭き、お母さんがその後ろから少し不安そうに控えていました。部屋の中には彼女を心配した村人たちがいっぱい集まっていました。

 

Neeちゃんの看護を終え、家から少し離れたところで、お父さんに彼女の今の状況と今後の予測を伝えました。お父さんは普段からとても明るい性格なのですが、たった5か月で元気だった我が子が今のような状況になることに気持ちが追いつかない様子でした。できる限りのことをしてあげるくらいしかできないことに、無力を感じました。

 

翌朝、食べたいと言っていたリンゴやオレンジ、豆乳、そして、治ったら着たいと言っていた細身のジーパンを購入してお父さんへ渡しました。これからの緩和ケアで何ができるだろうと考えながら、ルアンパバーンへの帰路につきました。

 

その数日後、Neeちゃんが息を引き取ったという連絡が入りました。まさに今後のケア計画を練っている最中のことでした。そして、私たちの訪問の翌日に、彼女は一つの物語と絵を書き(描き)残していたことを知りました。その物語はこのようなお話しでした。

 

 

▼Neeちゃんの描いた物語はこちらからご覧頂けます▼

蝶々の産卵の季節

 

 

Neeちゃんのご家族は字を読むことができなかったので、この物語の意味を知ったのはアウトリーチスタッフが後日フォローアップの訪問をした時でした。亡くなる直前の彼女が何を思っていたのか本当のところは誰も分かりませんが、誰もの心にNeeちゃんは強く残りました。

 

訪問看護の看護師であるカンパは、「これは家族へのメッセージだろうと思います。亡くなる前にこのような物語を書いた人に出会ったことがないので、とても心に響きます。彼女はきっとすべてを知っていたのだろうな。そんな彼女に何もしてあげることができなかったことが辛い。」と言っていました。

 

緩和ケアについて知らなかったスタッフが、患者さんが亡くなったら緩和ケアが終わるわけではないことを知り、少しずつこうした経験を通して患者さんと家族と向き合えるように成長するのだと思います。

 

Neeちゃんのご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

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